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小説 Vol.1 「鏡」
先週の事務所での課題は、エッセイではなく小説、ショートショートでした。掲載するのを忘れていたので、今日UPです。お暇な方は、短い小説なので、是非読んでみてくださいな。
お題は・・・・『鏡』
鏡に映る自分の姿を、自分だと認識できる能力を『鏡映認知』と呼び、これが自己認識の第一歩だとされているらしい……。
そんな難しい話はどうでも良かった。この顔は、俺に間違いない。25年間この顔を見続けていた。思春期になると、にきびが気になり始め、そのうち親父みたいに髭が生えてきた。慣れない手つきで髭をそると、時々かみそり負けして、血がにじんだ。あごに傷テープを張るとクラスの女子に冷やかされた。そんな馴染みある俺の顔。決してかっこいいとも思わないが、愛着のある俺の顔。
でも、もしこの顔が世の中に俺だけじゃないとしたら、俺って人間のオリジナリティーはどこに存在してくるのだろう。
頬にあるほくろか?
それとも眉毛の下にある喧嘩の傷跡か?
血液検査でもして、DNAとかなんとかってもので俺が、山下悟(サトル)だとようやく確認できるのか?
サトルは、鏡をまじまじと見つめて眉間にしわを寄せた。
これが俺だとすると、アイツは一体誰なんだろう?
数日前、夜7時過ぎにやってきた若い男は、店にヘルメットを被ったまま入ってきた。物騒な事件が多いこの近所では、コンビニでもヘルメットを被ったお客を忌み嫌う。店長に急き立てられて、その男に注意を促した。
『スミマセン、お客さん。防犯のため、店内ではヘルメットを外していただけますか?』
男は黙ってヘルメットを取ると、クシャクシャと頭を掻き分け、俺を見据えた。そして、口だけ小さく笑みを見せ、
『これでいい?』と低い声で聴いた。
誰だよ、コイツ!まさか……!
男の顔を見た瞬間、声を失った。声が出ないことなんて本当にあるのか?と、このときばかりは本気で思った。息を吸うことすら忘れそうだった。 その男の顔は、まさに、俺そのものだった。
「世の中には自分に似た人間が3人いる」という話を聴いたことがあるが、似てるというレベルの話じゃなかった。俺には右の頬に直径3ミリくらいの茶色いほくろがある。そして、左の目と眉毛の間に、昔10針縫った傷痕がある。 この男は、俺の間逆の位置、つまり、左の頬にほくろが、そして右の目と眉毛の間に全く酷似した傷痕があるのだ。それは、まるで鏡に映った自分の顔をみるように、全てが左右対称だった。
あいつは一体誰なんだ……?
その日からあいつの顔が頭から離れなくなった。あいつの顔と言うより、俺の顔でもある。俺は夢を見ているのか?
あの衝撃的な出会いから1ヶ月が過ぎようとしていたが、再びあいつの顔を見ることは無かった。鏡を見るたびにあいつなんじゃないかとビクツク自分が段々バカに思えてきた頃だった。
テレビのニュースであいつを見つけた。バイクで走行中、子供が飛び出してきたのを避けようと、ハンドルを切った瞬間、対抗車線を走っていた車にひき逃げされたというものだった。男の様態は意識不明の重体だそうだ。 やっぱりあいつは夢ではなく、存在していたのか。
それにしても悲惨な話だ……。ブルっと身震いした。
時計を見ると、コンビ二のバイトに遅れそうだった。慌ててバイクのヘルメットを被り、アパートの外に駐車していた原付バイクにまたがり、コンビニまでの直線大通りを走っていた。まだ夕方のラッシュ時間より早いせいかほとんど車が走っておらず、快適な走行だった。
突然目の前に小学生の女の子が小型犬と一緒に飛び出してきた……。
そのあとどうなったのか、全く覚えていない。そして気づくと病院のベットの上だった。親父とお袋のしわだらけの顔がドアップで俺を見つめていた。
どうやら俺は、2ヶ月以上も意識が無かったという。 数日後、ICUから一般病棟に移った。部屋には大きな姿見があった。鏡に映った俺は、頭に白い包帯を巻いて、松葉杖をついていた。
そして顔を見ると以前鏡に映った俺とは何かが違った。
それは紛れもなく、頬のほくろと目の上の傷痕が左右逆に変わっていたのだ。